「宮里小書店」宮里綾羽さん / 那覇市字安里 栄町市場

このまちで生きる人。

まるでアジアのマーケットのように地元感溢れる「栄町市場」。地域の人にも愛されるその場所は、迷路に入り込んだような雑多な雰囲気を、今も色濃く残しています。現在は飲み屋街としての顔がありますが、お昼に行けば、お惣菜屋さん、衣料店、商店など、生活に密着したお店が並びます。そんな中、市場内に2013年オープンした「宮里小書店」。その副店長として市場を見守り、さらに見守られてきた宮里綾羽さん。栄町の日常を独特の視点で記したエッセイ「本日の栄町市場と、旅する小書店」の著者でもあります。そんな宮里さんにお話を伺いました。

お父様の古書店を手伝う形で副店長に。色をつけるとしたら栄町は「セピア色」

栄町市場にある「宮里小書店」副店長 宮里綾羽さん

― 簡単なプロフィールを教えて下さい。

1980年生まれ、那覇市出身です。興南高校を卒業して多摩美術大学に進学、映像関係の勉強をしていました。都内にある映像配給会社に就職した後、25、6歳ごろに沖縄に戻ってきました。ある会社の契約社員で働いた後、韓国に留学。帰国後は大手メーカーの部品調達の仕事をしていたのですが、ちょうど産休を取った後、働き方など含めて人生を考え始めたんです。そのとき、父親がやっていた栄町の宮里小書店を閉めようかという話になり、それはもったいないと思って、2014年に副店長になりました。

向かって左側が「宮里小書店」。右側は衣料品を扱う「金城商店」。
栄町市場で唯一の超タンカーマンカー(お向かいさん)

― 子ども時代の栄町はどんなまちか覚えてらっしゃいますか?

小さい頃は首里に住んでたのですが、今でも栄町にあるお惣菜のお店「かのう屋」さんの娘さんと友達だったんです。なので、小学校2年生ぐらいから栄町で遊んでいました。当時は色でいうと「セピア色」でした。対して、いつも通っていた平和通りは「黄緑」というイメージでしたね。

― 栄町の書店で働いて、見えてきたもの、気付いたことはありますか?

実は副店長を始めた当時、市場に本屋がある意義など、全く何も考えてなかったんです。会社勤めが向いていない私にとって、一人で仕事ができていいなあ、ぐらいしか思ってなかった。でも、おとなりの金城さん(宮里小書店の隣にある衣料店の女性店主)が色々と商売について教えてくれたり、声掛けしてくれるうち、元々一人が良かったと思っていたのに、市場の人たちに会ったり、買い物したりするのが好きになっていったんです。特に本屋が必要とは思っていなかったのですが、市場には色んなものがあった方が人は来ますよね。なので、本屋は市場の多様性や多面的なものの一つなのではと思うようになりました。

「宮里小書店」宮里綾羽さん / 那覇市字安里 栄町市場|このまちで生きる人 インタビュー
タンカーマンカー(お向かいさん)の金城さん。取材時に美味しい珈琲を入れて下さいました。

― 栄町にずっといるからこそ分かる特徴や感じた変化を教えて下さい。

小書店をやるようになって7年なのですが、昼のお店が少し減りましたね。そして、夜のお店、飲み屋さんが増えました。一方で変わらないなと思うのは、市場の方はみんな温かいということです。金城さんともお互いに店番したりと助け合いの心がありますね。例えば、物忘れのおばあちゃんが、同じものを買いすぎたとき「さっきも買ったよ!もう買っちゃダメだよ!」と、みんなで止めるんです。お互い顔が分かっているからこそできることですよね。

「一人がいい」「人と離れたい」と思っていたのに、いつの間にか市場が大好きに

― 栄町ってすごいなと思った印象的なエピソードはありますか?

市場の方は温かいし、支えてくれると言いましたが、プライベートではお互いに深入りはしないし、とても独特な人間関係で成り立っているということです。「一番大切なのはお客様にいいものを提供する」という意識がみんなに共通しているんです。元々「一人でいたい」と思ってここに来たのに、結局はそんな市場の人が大好きになりました。

宮里綾羽さんの著書「本日の栄町市場と、旅する小書店」 。栄町市場の日常を独特の視点で記したエッセイ 。市場の様々な人々に愛しさを感じ、心が温かくなる本。

― 副店長としておすすめする「沖縄の見方や風景が変わる本」はありますか?

國吉和夫さんの写真集「STAND!」で1970年代から「基地と沖縄」をテーマにした写真が多く載っている本です。この写真集を見ていると、今の沖縄の現状に疑問を持ちます。どの土地にも色んな文化や歴史があるはずなのに、今の沖縄は、それらが均一化というか「平ら」にされてしまわないか心配です。もちろん、そうならないとは信じていますが。 「STAND!」の一枚一枚の写真には、私たちが「知らなければいけないこと」と「歴史を知らないことの怖さ」があります。この写真集を見た後の沖縄の景色は違って見えると思います。 

写真右下が、宮里綾羽さんがおすすめする本「STAND!」

― 将来的に栄町はどうあってほしいと思いますか?またそこに、どのような形で関わっていきたいと思いますか?

栄町市場内にあるコーヒー屋さん「potohoto」のさえちゃん(potohoto副店長)とも話したことがあるのですが、市場に「公民館」のような施設を作って、子どもたちが集まるような場所になったらいいなと。市場で働いている人たちの姿を見せたり、みんなで子どもたちを見守ったりと。市場にいれば、安全で楽しいねと思ってもらえることが理想です。

【お店情報】
宮里小書店
那覇市字安里388(栄町市場内)
Open 10:00-17:00
定休日:日曜、公休日
miyazato.kst@gmail.com
https://twitter.com/v7mcru6p0tk3m0u