首里といえば首里城。残念ながら火事で燃えてしまいましたが、実は首里城のすぐ近くで『メイド・イン・首里』のハチミツ屋さんがあるのをご存知ですか?金城石畳道から歩いてすぐの『新垣養蜂園』です。1954年創業、まだハチミツが世間に全く浸透していない時代から、首里で養蜂を続けています。三代目の新垣伝(つとお)さんに、養蜂を通して見た首里についてお話を伺いました。
子どもの頃、ミツバチには興味なかったんです
― 簡単なプロフィールを教えて下さい。
1983年生まれ、首里出身です。城南小、首里中学校、首里東高と地元の学校に通いまして、名古屋の名城大学に進学しました。元々教育関係の仕事に興味があり、小学校の先生になろうと思っていました。学生の時、障がい児が通う福祉施設でバイトをしていまして、そのまま就職。その後、介護福祉士と小学校教員免許を取得しました。施設の仕事はとても楽しかったです。相手の理解レベルに合わせてコミュニケーションをするなど、これが教育の原点なのではと感じさせられた経験でした。
転機になったのは27歳のときです。初代でもある祖父が寝たきりになり、二代目である父も体力が衰えてきてしまったんです。ヘルパー資格もあったし、家族に恩返しできるかなと思って沖縄に戻ってきました。
― 子ども時代の首里はどんなまちでしたか?
商店とか文具屋さんとかいろんな店がいっぱいあるまちでしたね。道路自体は今よりも狭かったんですけど、どこかで必ず大人が見ているという安心感があったのか、子供ながらに歩きやすいまちだと感じていました。
― 昔はどんな子どもでしたか?
とても引っ込み思案な子供でした。お遊戯会とか人前に出るのが大の苦手で。でも、小学校あたりから、当時流行っていたマンガのキャラクターのモノマネとかをやるようになり、徐々に明るくなっていきました。
実は当時、ミツバチのことは全く興味がなかったんです。無いどころか、何もしていないのによく刺してくるので、むしろ好きじゃなかったです。刺されて痛い思い出しか無いですね。
養蜂を通して『教育』や『まちづくり』ができるのでは?と気づいたんです
― 子ども時代は興味が無かったのに、なぜ跡を継ごうと思ったのでしょうか?
祖父や父など、実家のこともありましたが、沖縄に戻ろうかというとき、ミツバチに関する本を読んでみようと思ったんです。正直な話、初めてハチのことを知ろうと思ったのはそのときでした。いざ読んでみると、ミツバチが世界の食料生産に多大な貢献をしていたことなどが分かったんです。ハチ屋の息子なのに衝撃を受けたんです。
同時にその当時、世界でどんどんミツバチが少なくなっていくというのがニュースになっていた時代でした。なので、家業をなんとかしようというより、社会の仕組みやデザインを変えねばと思ったんです。合わせて、かねてから興味があった学校教育にも関われるのではと考えたのと、養蜂を通した『まちづくり』が出来るのではと思い、養蜂の世界に入りました。
まちからお店が無くなっていき、自然も少なくなってきていると感じます
― 首里というまちの特徴や感じた変化を、人目線とハチ目線で教えて下さい。
まず人目線だと、子供の頃と比較して、まちからどんどんお店が無くなっていくと感じます。僕の幼少期は、琉球大学が西原町に移転し、首里城の建設が始まった頃と重なるのですが、その影響があったのではとも思いますね。
ハチ目線ですと、僕がこの世界に入った10年前とあまり変わった印象はないんです。でも父親に聞いてみると、昔はお店の屋上に巣箱を80個置いていて、年間200キロもハチミツが採取できていたそうです。それが今では20箱100キロになっています。たくさん巣箱があるとハチ同士がケンカしてしまう。要するに蜜源となる自然が少なくなっているということですね。
― 首里ってすごいなと思った点はありますか?
歴史や文化が今でもちゃんと残っている点ですね。青年会も活発ですし、旗頭などお祭りの盛り上がりもすごいんです。地元民の生活感や息遣いが感じられるまちだなと思います。
首里に住む地元の人が、首里を楽しめるまちに
― 将来的にこのまちはどうあってほしいと思いますか?またそこに、どのような形で関わっていきたいと思いますか?
首里に住む地元の人が、首里を楽しめるようなまちがいいなと思います。観光客の方も、地元民が一番楽しんでいるまちに興味を持ってくれると思うんです。県内で『首里』の影響力って大きいんですよ。だからこそ、まず首里がそんなまちになって、県内に広まっていけばいいなと。
個人的には、NPO法人『首里まちづくり研究会』と作り上げたノウハウを活用しながら、環境教育の一環として大名小学校でミツバチ教室をやっています。ちょうど今年で2年目ですね。ネーミングやラベルも子どもたちが自分たちで考え、ちゃんと商品として売り出しています。小学校の先生になる夢が、ミツバチを通して実現しているんです。これらの活動がどんな影響を与えているか、現在はわからないですけど、10年後でもいいから将来、ミツバチのことを少しでも思い出してもらえると嬉しいですね。
【お店情報】
新垣養蜂園
那覇市首里金城町1-29
Tel 098-884-0814
Open 9:00-18:00
定休日:日曜
http://www.aaa888.org/index.html